「事故」(後編)
翌日、ずっと夢の記憶を引きずって、暗鬱たる一日を過ごした。
そして物語は二夜連続となる。
彼女は、かなりの重態と誰からとなく知らされた。
顔を包帯で覆われ、右手はギプスで固められ、左足を釣られてベッドに横たわる彼女の姿が浮かんでくる。
でも、彼女が誰なのかはっきりしない。知っている人らしいのだけれど、名前も顔も浮かばない。ただ、「走るのが得意」で、事故のせいで「走れなくなった」という思いがあった。
僕は、彼女の見舞いに行くことにした。
彼女の入院した病院はわかっていた。
自転車で行くことが憚られ、でも、この夢の中ではなぜかずっと自転車を手放せない僕は、自転車から降りて、押して病院まで行った。
病院は住宅街の角を曲がったすぐの所にあって、一見、民家のような作りだった。二階建てで、本当に病院だったのか、実は定かでない
近くまで行くと、彼女の弟に追い払われたため、結局、確かめていない。
彼女の弟は(知っている顔だったのだけれど、別人の設定らしい)、僕を見るなり「お前のせいだ!」と叫びながら石を投げつけてきた。
僕は、少しの間、呆然としていたけど、石をぶつけられそうなので、角の影に隠れた。
なぜか、角を曲がると彼女の弟は追ってくるわけでもなく、僕はどうしようかと思案に暮れた。
再び角から顔を出すと、しゃがみ込んでいた弟が再び立ち上がり石を投げつけてきた。
僕は事故と全く無関係であると主張するつもりはなかったが、こうも責められると弁解の一つもしなければならないような気がした。少なくとも、彼女を事故に遭わせるつもりはなかったし、悪いのはトラックの運転手だ。僕じゃない。
そういうことを叫んだような気もするし、心の中でそう思っていただけかもしれない。
弟の声に気がついたのか、二階の窓から彼女が顔を出した。
真っ白な包帯に覆われて片目だけ覗かせた彼女がこちらを見た。
結局、彼女が誰だかわからないまま、全ては夢の中に閉じこめられたままだ。