1985年2月。東京都新宿区。午後6時。
ホテルのフロントで鍵を受け取り、自分の部屋のある5階までエレベータを使った。
廊下にはワインレッドの絨毯が敷いてあり、その両脇に置いてあるヒーターが「ゴー」という音を立てていた。
他には何も聞こえない。
他の部屋には誰もいないのだろうか。ため息を落とすにはもってこいの静けさだった。手に持った鍵をカチャカチャ鳴らしながら廊下の突き当たりにある部屋まで歩いた。
東京の私大受験のため、そこに、一昨日から滞在している。
旅行会社の受験パックでも利用すれば、もう少しましなホテルに泊まれるのだけれど、それなりに金がかかる。
ここは1泊3,800円。バス、トイレともに共同。それで十分だと思った。しかし、チェックインしたときは、少し後悔した。
部屋は細長く、入り口の反対側に窓が一つあり、黄色いカーテンが掛かっている。
窓の手前、右手には、学校の職員室にあるような机といす、左手にロッカーがあって、右手の白い壁際には学校の保健室にあるような堅いベッドがあった。ベッドの向かいの壁際に置いてあるテレビは、200円で1時間半見ることができる。
そして入り口の横には、廊下にあるのと同じヒーターが、「ゴー」という音をたてて、暗い照明で照らされている部屋を暖めていた。
1泊3,800円なら、こんなもんなのかもしれない。
もっとも、他にいくつもホテルを知っているわけではないので、もしかするとホテルはどこもこんなもんなのかもしれない。窓を開けると夜の街の騒音が、冷たい空気とともに部屋の中に入ってきた。
遠くに高層ビルの灯りが見える。さっきまで降っていた雨は、いつの間にか止んでいた。
近くの道路から救急車のサイレンが、行き交う車の排気音に混じり、モーターバイクの排気音が、少し大きく聞こえた。
そうして、しばらく外を眺めていると、下の方でサラリーマンふうの男が2人、何か話しながら歩いているのに気が付いた。
複雑な気持ちになってきたのは、何故だかわからないけれど、少し寒くもあったので、窓を閉めると、騒音がスッと小さくなり、ヒーターの音が再び部屋を満たした。上着を脱ぎ、ベッドに横になった。
いろいろな思いが頭をよぎる・・・・・。眠らせて欲しい‥明日のことは誰にもわからない‥‥心に写したピクチャー、忘れない‥No More Pain Tonight
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